短篇小説 新章 1話『 One man’s trash is another man’s treasure.』

2021-08-04 17:50:58

 

街は蒸気に吞まれている。

 

街は煤煙に呑まれている。

 

濛々と。あるいは轟々と。

 

 

街の至る所から噴き出る蒸気と、聳える無数の煙突から吐き出される煤煙が止まることはなく、職人と技師が活気づき、あるいは怒鳴り散らす喧騒の大きさに比べて、街一帯はいつだって視界が悪くて薄暗い。

 

ズクンフッドの玄関口

 

そう呼ばれる”城郭都市シャガルー“には他の地方にない「蒸気機関車の駅」があり、各都市へと線路が繋がっている。
バンゴトラン山脈より程なくした場所に街がある為、標高が少し高い。

高低差の付いた無数の線路を走る姿は、頭上から見下ろせば恐らく不格好な蜘蛛の巣のように視える。

ルドラ帝国の機械技術の革新をこの街より触れる事が多い為、各地方からやってきた田舎者達が物珍しそうに見る姿は正に蜘蛛の巣に引っかかったソレのようだ。

航空技術が発達してるものの、ズクンフッド地方の主な移動手段は蒸気機関車である為、大都市以外の街へも線路を繋ぐ作業は今でも続いている。

 

まあ、そんな不格好な街並みのおかげで助かることもある。

 

 

例えば――

 

 

「――あ、マズい

 

ひょいと路地に出ようとして顔を出した男は、慌てて来た道を戻る。

入り組んだ路地に身を隠しながら、今度はこっそりと通りを覗き見た。

 

……よし、気づかれなかった

 

玄関口』という名が付いているということは、即ち人の出入りが多い街である。
人の出入りが多い街ということは、それだけ様々な思惑を持った人々が訪れる街である――ということになり、転じて警備の人員も多く配置される街ということになる。

つまり、何が言いたいかというと……帝国兵の数が多いのだ。

それこそ、大都市に比べても遜色がない……いや、比べても多いのではと感じるほどに。

完全武装している軍兵もおり、まるで不審者は見つけ次第処分すると言わんばかりの物騒さで往来を闊歩しているのだから、顔を指したくない様な連中にとっては居心地の悪いことこの上なかった。

男も、勿論その例に漏れない。

 

 

ゴソゴソと懐から引っ張り出した紙切れは、似顔絵が描かれた二枚の手配書である。

 

【――ココリコクックドゥといくつもの偽名を使う30代男性。もじゃ毛の髪型が特徴。自称探偵。行動に不審な点が多く、又、各地で問題行為・迷惑行為に及ぶ。反帝国組織との接触情報も多数ある為、見つけ次第帝国軍に通報されたし】

 

「――……はぁ…どうせならもっとカッコいい似顔絵にしてくれないかねぇ」

 

自分の手配書ともう一枚の手配書を見比べて、明らかな差がある事にその男は悪態をつきながら、もじゃもじゃ頭を撫でた。

その男は辺りに気を配りながら路地を抜ける。幾つかの路地を抜け、街の中心部からだいぶ離れた区画にたどり着くと同時に名を呼ばれた。

 

キッキ、こっちだ

 

もう一枚の手配書の男――反乱軍遊撃隊隊長ジェイムズ・ゴッドフィールドが、ついてくるように手を振っている。

男は周りをキョロキョロしながら足早に彼の下に向かう。

 

 

「――なーんで、こんなことになっちゃったかねぇ……」

 

 

 

もじゃ毛の男キッキレキ・ハルバルズは薄暗い空を見上げながら、溜息をついた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

それは幾日ほど前の出来事だ。

 

男が二人、立ち尽くしていた。

 

一人は、様々な生地を継ぎ接ぎにしたような外套の男――流浪人のキッキレキ。

一人は、身体の随所に革鎧を装備した、戦士風の男―反乱軍のジェイムズ。

 

二人は思いもよらぬ状況に驚きを隠せずにいた。

 

距離にすれば数百メートル。モーデン地方の東にある”湖畔の街カーネビー“に程近い丘から立ち上る煙に、彼らの表情は険しさを増すばかりだ。

 

「あそこってさ。アタシの記憶が正しかったら……」


「ああ、反乱軍基地がある場所だ……いや、あった場所――だな」

 

いつの間にか取り出していた折り畳み式の望遠鏡で様子をうかがいながら、ジェイムズが言う。

 

「帝国軍兵の数が……ざっと50人以上」


「おいおい!どうゆう事よそれ?」


「判らねぇ……が、ここから離れた方が良さそうだ」

 

望遠鏡を畳み、ジェイムズは踵を返した。

キッキレキは驚きながら、慌ててジェイムズの後を追う。

 

「ちょっ……何処に行くのよぉ!?」

 

「どこって?別の基地に決まってるだろ」

 

キッキレキの問いに、ジェイムズは「なーにおかしなことを聞いてやがる」と首を傾げた。

 

「此処以外にだって、俺たちの拠点はある。何が起きたかは、そっちで聞けばいいし寧ろ連絡がある筈だ。とりあえずそこに向かう。行くぞ、キッキ!」

 

「”行くぞ、キッキ“じゃねえよ!待て待て、色々と”約束“が違うじゃないのよ。報酬は?ガジェット修理は?」

 

叫ぶキッキレキの脳裏には此処に至るまでの災難が蘇える。

 

 

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↓プレストーリー EP0より

※この動画は「LIFEisFANTASIA 5th〜ビザールバザールと蒼海の宝珠〜」に向けた映像作品でしたが、イベントが中止になった為『短編小説 新章1話』前日譚ストーリーに変更となりました。動画内のタイトル表記が変更できない為、以前のままとなっております。ご了承ください。

 

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2年ほど前に反乱軍三幹部の一人であるレッド・チャップからの依頼でメモリストの実態を知る為、キッキレキは潜入調査をしていた。

 

潜入期間を終え、報酬を受け取る為に指示された場所へ向かうとそこには面識のあるジェイムズがいた。

ジェイムズに調査報告書を渡し報酬を受け取るも約束の金額の5分の1程度しか貰えず、残りの額は反乱軍基地で渡すと伝えられる。

 

災難だったのは、報酬が全額その場で貰えなかったのもそうだがそれよりもジェイムズの目的であった魔獣狩りの手伝いをさせられてしまった事が大きく関係している。

 

手伝いというか、巻き込まれたというか……。

 

 

ある魔獣の素材を採りに「フロッシュベントの樹海」に潜っていたジェイムズ。

 

報酬をもらうついでに魔獣をおびき出す為に必要な食材を渡しに来たキッキレキ。

 

そこへやってきた妖精郷メディナヘイムの警備隊で元冒険者カリス

 

知った仲である三人が偶然再会し、懐かしみ語らう。

 

しばらくすると、ジェイムズ本来の目的の魔獣が食材の匂いに吊られてやってきた。

 

魔獣の咆哮に「待ってました!」と嬉々するジェイムズとして「いつかの仮借りを返そう!」と武器を取るカリス。

 

松明と武器を片手に魔獣の咆哮が聴こえた方向へと二人は突っ込んでいった。

 

だが、数分も経たないうちにUターンして叫びながらこちらへと帰って来た。

 

思ったよりもでけぇーぞ!

 

二人の想像したサイズよりも一回り大きかった魔獣にビビった三人は尻尾を巻いて逃げる事に。

 

しかし、どういうわけか魔獣はキッキレキ ばかりを追いかけ回したのだから、たまったものじゃなかった。

 

助けを乞うキッキレキに対し、二人はこう言う。

 

「いいぞキッキ、そのまま囮役に徹しろ!」

 

「遠くへ行かず引きつけながら逃げろ!狙いが定まらないッ」

 

「おめぇら助ける気ゼロかよッ!」

 

悟ったキッキレキは、小型ボーガンで応戦するが、これがまるで効き目がない。

 

樹海を駆け抜けながら、隠れる場所を探すも、気がつけば目の前に大きな壁が現れて行き止まりとなった。

 

完全に逃げ場を失ってしまったのだ。

 

「あーもう、なるようになれ!」

 

と半ばやけくそ気味に腰マントの裏に隠していた大事な時にしか使わない「蛇腹鞭剣型ガジェット」を取り出して、突進してくる魔獣の足を目掛け武器を振る。

 

やけくそ根性だが、ガジェットは地を這う蛇の如く野を駆け抜け、見事に魔獣の足を捉えた。

 

すかさず全身で武器をけん引――キッキレキの奇襲により、魔獣は勢いよく転倒したのだが――その転倒の勢いに引っ張られてキッキレキは空高く舞い上がった。

 

いいいいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああ!!!!

 

 

甲高い悲鳴が、夜の闇に木霊した。

だが、その悲鳴は二人の戦士の耳に届くことはない。

 

「よし、作戦成功!カリス、畳み掛けるぞ!」

「ああッ!」

 

機を得たりとばかりに魔獣へと飛び掛かる二人の姿を尻目に、キッキレキは樹海の木々へとダイブした__

 

無事、目的の魔獣の角を手に入れて喜ぶジェイムズとカリス。そして、カリスは「仕事に戻る」と言い早々とその場から立ち去った。残った二人は先程陣を取っていたキャンプ地へとと戻り、夜を明かした。

 

「……あぁ、やっぱりか」

 

朝日が昇りニワトリが鳴き始めた頃、ガジェット武器を回収に向かったキッキレキが肩を落としていた。

何故かというと、大事な時にしか使わない(使いたくない)ガジェット武器が故障していたからだ。

キッキレキの持つ蛇腹鞭剣型ガジェットは分解から再連結する際、連結部に異物を巻き込む可能性があるわけで……つまり、毛がこれでもかというくらい詰ままってしまったのである。

 

もはや個人でどうこうできるレベルの故障ではなく、技師によるメンテナンスが必須のレベルである。

 

途方に暮れてしまったキッキレキに、少しばかり申し訳ない顔をしたジェイムズは「反乱軍の仲間なら直せる奴がいるはずだぜ?」と提案してきたのだ。

 

正直な話、反乱軍の基地にはもう行きたくないというのが本音なのだが……背に腹は代えられないと、断腸の思いでジェイムズと共に反乱軍基地まで戻ってきたのだ。

 

 

しかし、蓋を開けてみればこの始末。

(あーあ、もう。やっぱ反乱軍に関わると良いことないなぁ……)

 

報酬を貰い武器も修理し終えたら〝はい、さよならぁ~〟と一目散に逃げる算段でいたキッキレキにとって、この展開は想定外なのである。

 

「キッキのガジェットの修理については、ご覧の通り――此処じゃあ無理だ。ほかの街にいるメンバーなら、どうにかできるかもだが……どうする?」

 

ガジェット武器というのは、高度な機械技術によって組み立てられた機械武器である。

更にはキッキレキの持つガジェット武器は「廃盤」になっている型式なので直せる職人が少ない。

となれば、その機械部分に用いられる材料は勿論、内部機構を構築する部品というのはどれも値が張り、故障の進度によっては部品ひとつひとつの修繕・交換が必要――つまり、G(ゴルド)がかかる。

 

買い換えるにも一点モノに近いので似た武器を探すのも大変なのだ。

 

それに、この男の案内がなければ――レッド・チャップには会えないし、反乱軍に所属しているという凄腕ガジェット技師を紹介してもらうことはできない。

 

――となれば、答えは一つだった。

 

「どうするんだよ?」 

 

と答えを急かすジェイムズの問いに、キッキレキは空を見上げ、地面を見下ろし、地団駄を踏んで――

 

「――選択肢が一つしかないってキツいぜッ!コンチクショーめッ!」

 

 

そう、涙声で答えたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

「……さて、”アーチドゥンケル"に来たのはいいけどさぁ。紹介できる仲間がいるのって”城郭都市シャガルー“って言ってたよね?」

 

「ああ、さっきそう言ったな」

 

城郭都市シャガルーってことは、バンゴトラン山脈をどうやって越える気なのかなーって疑問なんだけど、この山間トンネル……は、キミもボクも、お尋ね者だから通るの無理じゃないか?検問に引っかかれば一発アウトの可能性大よ?」

 

ごそごそと、懐から二枚の手配書を取り出した。一枚はキッキレキ自身のもので、もう一枚はジェイムズのものだ。
手配書の人相描きは、鮮明な画像ではなく手書きのモノらしく、幸い似ているようで似ていない。そして描き手によって絵の上手さが違っていた。

 

気づかれない――といいなぁという希望を抱きつつ、キッキレキは言う。

 

「キミのことだからてっきり山越えルートを選ぶつもりだと思ってたんだが……いや、勿論そうなれば絶対に拒否するけど」

 

ズクンフット地方とモーデン地方を隔てる高く聳え立つバンゴトラン山脈は、山越えするには険しいことで有名だ。その山道は急斜面になっている場所も多いが、歩いて越えられない程ではない。

ただ、一苦労も二苦労もするのは間違いないのである。

 

そのため1番楽にズクンフッド地方へ行ける方法がある。

 

それは、ルドラ帝国による陸路改善開発に伴って山脈の麓をぶち抜く形で掘られた、巨大な山間トンネルを通り抜ける方法だ。

 

モーデン地方側を”南の大帝門アーチドゥンケル”ズクンフッド地方側を“北の大帝門アーチリヒト”と、呼ばれている。

 

しかし、このトンネルには警備と管理のために帝国兵が常駐し、同時にトンネルの利用者の検分と利用料の徴収を行っているのだ。

そしてその利用料が、なかなかに高い。

特に大型の荷物や、大量の商品を通す際は、帝国軍が管理する専用の移動用船舶による運搬が不可欠のため、この船を利用した際の金額はかなりの額になる。

 

どれくらいかというと……帝都で暮らす一般市民の生活費半月分。商人の荷物の量によっては、其処から更に跳ね上がっていくのだ。

 

キッキレキとジェイムズは、変装しているとはいえ、帝国によって指名手配されている身柄である。いくら変装してても、詳しく調べられたらそれも偽装だというのバレてしまう可能性が非常に高く――

正直、乗せてくれるどころか、むしろどうにか荷物に紛れて密航する方法を考えているのだと思っていた。

 

 

――なのに。

 

 

なのにどういうわけか、二人はバンゴトラン山脈を抜けるための運搬船の片隅に腰かけていた。

 

「……なんか、スムーズに移動出来てますけど….どんなカラクリを使って乗せて貰ったのよ?」

 

「――まあ、あれだ。伝手ってやつだよ」

 

言葉のニュアンスから、明確に答える気がないのだけは判った。

 

訝る視線を向けるが、ジェイムズは気にも留めずに荷物袋の中から固そうな干し肉を取り出してもぐもぐと齧っている。

 

「ところで、反乱軍基地で何がおきてたか分かったのかい?」

 

「まあ、色々と…な」

 

銜えた干し肉を引きちぎりながら、ジェイムズは仕入れた情報をキッキレキに何故か開示してくれた。

 

モーデン地方にある地下反乱軍基地は、やはり帝国軍の襲撃に遭っていたそうだ。

それもただの帝国軍ではなく、帝国軍の中でもとびっきり危険な部隊――あのザラキエル将軍が率いる特殊部隊”魔人兵”が投入されていたらしく、少数の襲撃にも関わらず、基地は壊滅に追いやられたらしい。

 

反乱軍の三幹部であるレッド・チャップを筆頭に数名の実力者たちが時間を稼いだことにより、地下基地にいた反乱軍のメンバーは方々へと逃げ延びられた。

基地の惨状に比べて、死者も捕縛された者もいなかったらしい。

 

「魔人兵……って、ディアガルド王国の騎士たちを、小隊で全滅させた特殊部隊よね?よく無事で済んだ……いや、無事って言えるのかは判んないけど」

 

ディアガルド王国が辿った悲劇とルドラ帝国の強大さは大陸中に轟いている為、有名な話だ。

 

「まあ、チャップの事だから、何とかやり過ごしたんだろうな。それに他にも腕自慢の連中も混じってるんだ、舐めてもらっちゃ困るぜ?まあ、俺なら時間稼ぎとは言わず”あのスタイリッシュゴリラ“…もとい、魔人兵と一戦やり合えるけどな」

 

「ん?2年前くらいにドワーフの街で、魔人兵に殺されかけたんじゃなかったっけ?」

 

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↓LIFEisFANTASIA 3th

サブストーリー『悲しみの追跡者』より

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「……まあな。だが、あの時は隙を見て逃げるつもりが得体のしれない攻撃に対応が出来なかった…だが、今は違う。2年も昔の話だぜ?俺があれから奴等と戦う準備をしてない訳がないだろ?」

 

「キミが優秀な戦士なのは知ってるんだが……とはいえ、少し相手が悪いんじゃあないの?」

 

魔人兵だか帝国六将軍だか知らねぇが容赦はしねぇ…。それに目の前で俺の女も殺されかけたんだ。キッチリ落とし前つけてやらねぇとなッ!!」

 

ジェイムズの瞳はギラリとしており、それはまるで獲物を狙う狼の様だったがキッキレキは「そーですかー」と、おざなりな返事を返した。

 

正直な話、キッキレキにとってはあんな見るからに普通ではないヤバい連中に勇んで戦おうという精神構造は、まったく理解が及ばない。

 

復讐?リベンジ?異次元の発想である。

 

危ないことからは遠ざかり、逃げ回るのが一番いい。古い人は言いました。

 

命を大事に」ってね。

 

まあ、言ったところで気迫と闘気みなぎるこの男が耳を貸すとは思えなかったので軽口を返す。

 

「あーだったら、そのリベンジマッチはVIP席で観戦させてもらうよ!」

 

「いいぜ!ただし、瞬き厳禁なッ!1ラウンド 1分40秒でKOすっからよッ!」

 

「おーおー流石は元A級ハンターストライカーのジェイムズ・ゴッドフィールド様ですよ。あ!やっぱり、アタシはその観戦チケットを売りさばいて大儲けしちゃおうかしらねッ」

 

 

2人はそんな冗談と物騒さを交えた会話をしながら、山間トンネルを抜けるのを待った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「――やっぱまともに修理できる奴はいねぇーか」

 

 

城郭都市シャガルーに到着したキッキレキは、早速ガジェットの修理を頼もうしていた。ジェイムズから紹介された反乱軍の支部に足を運んでいた。

 

反乱軍は基本的に、暗躍して活動している為「表の顔」は一般市民を装っている。

 

反乱軍基地は地下にあったり、普通に街の一部として施設を装っていたりと色々。

 

案内された地図の場所にある建物の看板を見ると”天幻突破「M.O.D(マッスルオーバードライブ)」“と書かれていた。

 

「いや、トレーニング施設かよッ!ガジェット屋じゃねぇのかよッ!」

 

と、誰もいないのに大声で叫んだ。

 

とりあえず、施設へと入り受付の者にジェイムズの紹介で〝ガジェットの修理ができる技師がいる〟と聞いてきた旨を伝えた。

 

「悪い、そいつ今いねぇわ」

 

「先週くらいに出てったぞ」

 

「・・・そうですか」

 

 

一人往来を歩いて大声では言えない様な愚痴を吐き出しながら、キッキレキは諸悪の根源を探すべく街を右往左往する。

 

 

「――それで、何か分かったのか?」

 

聞こえてきた声は、今まさに探していたジェイムズのものだった。

キッキレキは足を止めて目線を上げれば――声が聞こえてきたのは、案の定酒場の看板が掲げられている店だった。

オープンタイプの酒場に入り口はなく、入ろうと思えばすぐに踏み入ることができる。

一言文句を言ってやろう――そう思って店に足を踏み入れようとしたキッキレキだったが、覗き込んだ際に見えたジェイムズの鋭い眼差しと険しい表情が、彼の足を止めさせた。

 

誰かと話しているのは判った。

しかし、背格好や服装からそれが誰なのかは判らなかった。

 

(うーん……なーに喋ってるのかいまいち聞き取れないなぁ)

 

酒場の喧騒もあって、二人の会話はキッキレキのところにまでは届かなかった。それでも野次馬根性で必死に耳をそばだててみる。

 

(なになに……えーと――……ザラキエル将軍……――不在? なんのこっちゃ?)

 

(――活動……休止中のはず……魔人兵……――ゼロ……と……によるもの?あれか、反乱軍の基地を襲撃した魔人兵のことかな)

 

(――……皇子? ……勝手に――……軍部も混乱? ……――調査……確認……? んー……何の話だ? っていうか――)

 

「会話内容から、最初は反乱軍の現状確認かと思ったのだが……―これって帝国の内部事情か何かじゃない?」

 

ふと湧いた想像に、キッキレキの背中を嫌な汗がつたった。ぶんぶんと頭を振って、今思いついた想像を振り払っていると、

 

「――それじゃあ、幸運を」

 

と、ジェイムズの話し相手が席を立ち酒場を去って行った。
ジェイムズはちらりと、キッキレキが身を隠しているほうに

 

「おーい、キッキ出てきていいぞ?」

 

(――……めっちゃバレてるんですけど!?)

 

「雑な隠れ方だな。もう少し目立たなくしてからやれよ。あと、その髪型じゃあ隠れられないぜ?」

 

とジェイムズが笑った。

さっきまで考えていた諸々が吹き飛び、同時にキッキレキは思い出したように憤慨の声を上げる。

 

「そ・れ・よ・り・も!どーなってるんですかね〜アンタに紹介してもらった修理屋さん、今はいないって言われたんですけど!」

 

「え、マジで?……って、ああ。それもそうか。俺が呼ばれてるんだから、腕の良い技師なんて当然お呼びがかかってるか」

 

驚くジェイムズは、直ぐにその理由に思い至ったらしい。

そして軽い調子で「悪い悪い。忘れてたわ」と、気持ちのこもってない謝罪を口にした。

 

「謝る気ないだろ?」

 

「仕方ねーだろ。不測の事態って状況だし。ガジェット武器を修理するって約束した時は、こんな状況になるなんて想像もしてなかったからな」

 

「そりゃ〜まあ……そうなんだけどさぁ」 

 

ジェイムズの言うことはもっともであり、そのことを指摘されてしまうと、キッキレキとしても強くは出られなかった。

ジェイムズにしても、決してキッキレキと交わした約束を反故にしようとしているわけではないのだ。

何が悪いのかと言えば、完全にタイミングが悪かった――としか、言いようがない。

 

キッキレキは、最早何度目かとも判らない溜息を吐いた。

 

「――……アタシの”切り札“はいつになったら修理できのかしらねぇ」

 

「まあ、買い換えるつもりのない大事なモンなんだろ?ちゃんと、目的地に着いたら一番腕の良いガジェット技師を紹介してやるよ」

 

項垂れるキッキレキの背中を叩きながら、ジェイムズは言う。

 

「随分長旅になっちまったからな。なーに、こうなったら一蓮托生だ。そのガジェットが直るまで、俺がしっかり付き合って面倒を見てやるさ」

 

キッキレキは困惑する。と同時に、着いて行くしかガジェットを直す手立てがないのは分かっていたので返事を敢えてしなかった。

 

「よし!そうと決まれば、早速移動の準備だな。なーに安心しろ。こっから先は検問の心配はないし、移動のための手段も手配して貰ったからな。大船に乗ったつもりで旅を続けられるぞ!」

 

「ちょーっと待って! なんかものすごい勢いで話が進んでいるけど、次は何処に行く気なのよ、まさか帝都じゃねぇだろうな?!」

 

「そんなまさか。キッキ様がご所望の腕の良いガジェット技師がいて、オレや他の反乱軍メンバーが集まるように指示されている場所に行くのさッ」

 

「それって何処よ!?」

 

ほとんど叫び声に近くなってきたキッキレキの問いかけに、ジェイムズは何てことないように答えた。

 

 

「――ズクンフッド地方最北の町にして反乱軍の本拠地”ケイプノルドヴィレッジ”だ!」

 

「いや、馬鹿馬鹿。そんなヤバい情報を反乱軍メンバーでもないアタシに言わんでくれよぉ!」

 

「言っただろ、一連托生って☆」

 

指をパチンと鳴らし、片目を瞑ったキメ顔の半裸の男。

 

そして、今から向かう最北の地を想像し、二つの意味で寒気を感じたのは言うまでない。

 

「はぁ、さっさとガジェットを直してもらってプライモール地方で雲隠れしたいぜ…」

 

そう言いながら、キッキレキは懐から蜂蜜酒の入ったスキットルを取り出し、細いストローでチューチューと啜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

新章 1話
『One man’s trash is another man’s treasure.』完

 

 

 

 

 

 

 

執筆    Aoi shirasame

原案・編集    Esta

 

 

 

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