モーデン地方全域に配られた「エルフの隠れ里のお祭りの手伝い」という謎の高額報酬クエスト。
何が謎かというと、その目的地は「エルフの隠れ里」としか書かれておらず、その場所は示されていなかった。クエストの依頼人も空欄で、そのクエストの仲介を請け負う者たちも依頼主が分からないといったもの。
そんな怪しくも危険なクエストに誰が参加するというのか・・・しかし、クエストの報酬は破格だ。
それに、エルフの隠れ里への興味もある。多少の危険を承知でクエストに参加することを決めた。
この先、何が待ち構えているのかも知らずに・・・。
あれからいくつかの街を経由し、その街や村にいる仲介人達から次の街へと指示を受けて旅路を進む。
一年ほど旅をしたぐらいに漸く核心的な場所の指示があった。そこはリーガロノクト大陸の西に位置し、自然が最も多いメテロライタ地方にあるフロッシュベントの樹海だ。
中心部に行けば行くほど磁場が強くなり、更には濃霧で視界も方向も分からなくなる「迷いの森」であり、人類未踏の地としても有名だ。その場所にエルフの隠れ里があるとでもいうのか???
私と同じくこのクエストに参加した冒険者たちがゾロゾロと樹海の中心部へ向かう。
我々の行く手を阻む濃霧に辺りが包まれたところに、薄く光り輝く麗人が現れた。
「妖精郷メディナヘイムはコチラです」
どうやら、エルフの隠れ里からの案内人の様だ。我らはその案内人に連れられてエルフの里を目指す。
そのエルフに案内されて、樹海の中心部に向かうと綺麗な黄昏色に染まった植物に囲まれた場所に辿り着く。
大勢の冒険者たちは、目的地の妖精郷メディナヘイムに到着した。
さっそく、広場の奥にあるステージの様な場所へと案内されると、暫く経って我々の前に3人のハイエルフが現れた。
君主オンギュルウスは冒険者たちの歓迎と閉鎖した里の開放、外界との交流を図るために「祭」を開くことを冒険者たちに伝えた。どうやら、クエストの依頼人は此処の君主だったようだ。
君主の話が終わるとそこへ突然ある男が割って入るように現れた。
「カリス」というエルフの冒険者だ。どうやら君主の弟らしい。
「こんなに大勢の冒険者を集めてどうするつもりだ!!何を企んでいる!俺は、この里のハイエルフを信用していない!」
と主張していたが、君主に軽くあしらわれていた。
確かにこのクエストはかなり怪しく、集められた我々冒険者も若干の不安もあったが、多少の危険ありきでこのクエストに参加している為、よっぽどのことでない限り驚かない。
そんなハイエルフ兄弟のいざこざも私たちには関係のない話。
さて、クエストである「エルフの祭りの準備」をするとしようか。
だが、その前に。
長旅で疲れているので、まずは腹ごしらえだ。いや、まずは酒だ!!!!
幻のエルフの里の食事だ!・・・と、思ったら普段から食べなれている料理がほとんどだな。
「一体どういうことだ?」と店主に聞く。すると、
「冒険者に合わせた料理を作る様にと君主様から指示があったんだ」
と教えてもらう。
ハイエルフと聞くと気難しいというイメージだったのだが、君主は気が利くし、意外といい人なのかもしれないな。
食べなれた食事と酒を流し込む。
休憩をしていたら里のミドガルエルフが声を上げていた。
「飾りつけの手伝いをしてくれませんか~~?」
どうやら、エルフ達が祭りの準備を始めているそうだ。
どれどれ・・・・・んん??
数人の冒険者たちと里のエルフが、何かに飾りつけをしているようなのだが・・・。
「祭りの飾りつけ」ということでエルフらしい装飾かと思えば、下には酒瓶を差し込みその上に飾りつけ・・・・。
メディナヘイムのエルフ達のセンスを疑うような飾付だ。気が付けば、広場に装飾されている飾りすべてが「エルフらしくない」雰囲気を醸し出している。これも気になった私はエルフに話しかけてみた。
「ああ、そうなんです。我々に祭りの習慣が無い為、外界の祭りを想像しながら装飾してるんです」
なんだ、そういう事か。
やはり、ここの君主はこの閉鎖された里を開放して外の文化を受け入れようとしているのだな。
祭りというだけあって、出店がたくさん並んでいる。
ここではメディナヘイムの特産品や工芸品、魔法のツールなど珍しいものばかりが店頭に並んでいた。
メディナヘイムの工芸品には「虫」の意匠の付いたものが多い。冒険者たちは珍しいアイテムに目を輝かせていた。
すると、遠くから笑い声が聞こえてきた。
其処には帝国将軍である、ダントン・オラプナーとその配下であるクルトンとスルトンだ。
帝国軍がエルフの里を目指しているとの噂は聞いていたが、まさか本当とは・・・。
一体何をしにやって来たのだろうか?
ハイエルフの2人に里を案内してもらっている。帝国将軍ということで特別待遇されているのだろう。
ダントン将軍はことある毎に「ハッハ―ッ!!」と高笑いをし、里中に響かせている。
少し癇に障るが相手にしない方が身のためだ。
外界との交流を持つ=帝国と手を組むと、言う事なのか?少し嫌な予感がしてきた。
大陸中から集まった冒険者たちは千差万別。
色んな種族がエルフの里に集った。
私はというと、食材である「種を探す手伝い」や「演舞の手伝い」といった祭りの準備の手伝いを行った。
金額的な報酬は後で支払われるとのことなのだが、それ以外の報酬として「エルフチケット」というものを貰った。
郷のエルフ達に聞くと、この里を守る純血のハイエルフ「竜精の巫女」に謁見するために必要なものらしい。
メディナヘイムの地図を見ると「竜精の社」という場所に巫女はいるらしいとのこと。
行ってみるとするか。
竜精の社の前にいる従者にチケットを見せ、ほんの数秒だけの約束で謁見をゆるされた。
薄いレースの先には真っ白な出で立ちである純白のハイエルフが其処にいた。
あまりの神々しさに、声を失う・・・
気が付けば、時間は過ぎ何を聞いたのかも話したのかも忘れてしまったが、何故か弱っているという印象だけはあった。
これも里のエルフから聞いた話だが、郷を守るためにかなりの魔力を使っているらしい。
その魔力が今は無くなってしまい、竜精の社で身体を休めているとのこと。
竜精の巫女が何たるものかは知らないが、なんだか会えてよかったなと思えた。
そうこうしている間に、日が暮れ始めた。
辺りの木々につるされた明かりがつき始めた頃には、祭りの準備を終えていた。
仕事を終えた冒険者たちは食事や音楽で各々が自由に楽しむ。
そんな時間が流れているところへにあの高笑いが割って入って来た。
ダントン将軍と側近のクルトンとスルトンだ。
ステージで一体何をしているんだ?
色んな情報と事実が錯綜して訳が分からなくなる。だが、これだけは言える。
私たちはとんでもないものに巻き込まれてしまったのだ。
一介の冒険者である私たちは帝国だか、竜信仰だかの勢力争いには関係ないのだが自分の身を守るために協力するしかない。
竜精の巫女に魔力を集めればゴーレムが消えるのかもしれないという一縷の望みにかけて。
ヴォビットたちが試作として大量に製造している封魔器に魔力を込め、その魔力を竜精の巫女に渡す。
それもこの里にいる冒険者数百人の魔力が必要なのだが、全員が協力的かといえばそういうわけではない。
だが、ひとつ、また一つと竜精の巫女の元へと封魔器が集まっているようだ。
これはかなりの人数の魔力が集まっているのでは・・・??
すると、あの声が聴こえてきた。
「散々手こずらせおって、お陰でまあまあ時間を取られたぞ」
時間稼ぎをする為におとりとなったカリスがダントン将軍の操る新型ゴーレムに捕まりボロボロになった状態で連れてこられた。
「ん?なんだ、アイツらは足止めを喰らったか。全く役立たずな奴らだ」
どうやら、クルトンとスルトンはカリスが仕掛けた罠にはまったらしい。
ダントン将軍の操作でカリスにとどめを指すため新型ゴーレムが剣を振り上げた瞬間、声が割って入る。
「待てッ!!」
竜精の巫女の扱う古代魔導器の力でゴーレム達が消え、援軍として控えていた帝国兵たちは反乱軍リヴァイアサンによって壊滅状態。ダントン将軍とその配下たちは逃げていった・・・・。
君主オンギュルウス、そして竜精の巫女から私たちを集めた理由と、その考えが過ちだったということを伝えられた。
・・・・・が、納得できないことは多々ある。
だが、そんなことを言っても何も生まれるわけもないだろう。
今は、命ある現実とこの場で出会った仲間たちと祭りを楽しむことにした。
再度、竜精の社にやって来た。
ハイエルフ達が守っているとされる「竜の情報」は当然ながら教えてはもらえなかったが、「竜の伝承の一節」を竜精の巫女から直接話をしてもらえた。
遥か昔、世界を創ったとされる「神龍」は人々へ知識を教えるために5つの竜に分かれた。
火竜(かりゅう)・水竜(すいりゅう)・風竜(ふうりゅう)・土竜(どりゅう)・魂竜(こんりゅう)へと
竜たちは一部の者へ自らの血肉を与え、「竜人種」としての力を与えた。
竜人種より、人びとへ魔法が伝わっていったとされる。 ~創世記・竜の伝承より~
竜信仰ではない私にとってはおとぎ話を聞いている様なものだが、竜信仰者にとっては貴重な話かもしれないな。
本当に色々あったな・・・
高額報酬クエストに釣られてここまでやって来たが、ハイエルフや帝国の抗争に巻き込まれて大変な目にあった。
だが、妖精郷メディナヘイムに入れたこと、そこで貴重なアイテムを手に入れたこと、竜に関する情報を得た。
これに関しては収穫であり、経験値が上がったと思う。
少しは冒険者としての「格」が上がったかな?
さて、明日にはここを発たなければいけないらしいが今やるべきことをやるとしよう。
え、何をやるのかって??
聴こえてこないか、ステージから聴こえてくるあの音楽が。
冒険者は音楽が鳴り始めたら踊りだすモンだろ?
色々考える事も多いが、楽しい時は楽しみ、笑いたい時は笑い、踊りたい時は踊ればいいのさ。
私たちは冒険者。自由と浪漫を求めて生きている者。
明日は明日の風が吹く。
さあ、次はどこへ行こうか?全ては明日が決めることさ。
第四章 妖精郷メディナヘイム~PCストーリー~ 完
AFTER STORY Episode Charis
メディナヘイムの騒ぎから一週間が経った・・・。
俺はゴーレムとの闘いの後、郷の周辺を見回っていたがその途中で気を失って倒れたらしい。
4日ほど寝ていた。
かなりの傷を負ったが、ハイエルフの魔法と薬のお陰で今は立てる状態にまで回復したみたいだ。
俺が寝ている間に郷は変化していた。
偽の祭りの飾りつけはすべて外され、あれだけ多くいた冒険者は居なくなっていた。ハイエルフ達の企みで集められた冒険者たちにはお詫びとして、高値で売れる特殊金属「ミスリル」を渡したようだ。
今は竜精の巫女の魔力が回復し、以前のように外界からの侵入を防ぐために古代魔導器の結界が張られていた。
変化というより、日常に戻ったという訳か・・・・。
変化は俺の身に起きていた。
瞳の色がいつの間にか青色に変わっていた。
俺は、君主であるオンギュルウスの実弟だが母親が違う。
元君主であるハイエルフの父とその妾であるミドガルエルフの母の間にできた子供だ。
ハイエルフの特徴である金髪でもなければ瞳の色も違うわけだから、他の兄弟のハイエルフ達からは嫌われていたもんだ。
何故、俺の身体に変化が起きたのかはさっぱり分からない。
だが、俺の中でこの里に対する考え方が少し変わった。
俺は頭ごなしにこの里の考え方ややり方を否定してきたが、アイツらにはアイツらの考えがあったのかもしれない。それをまずは知ろうと思う。
オルスのいる宮殿にでも行ってみるとするか!
・・・ジャンヌとマイラは元気にしてるか?
俺は、暫くこの里に残ろうと思う。
オルスやこの里のハイエルフ達の事、魔法や竜についてを勉強しようと思う。
ジャンヌには魔法を使えるようになった所を見てもらいたいし、マイラには竜の話をしてあげたい。
だから・・・・。
もう少しだけ待っててくれ。
必ず逢いに行くからな。
AFTER STORY Episode Charis END