〜プロローグ〜
かつて竜を中心に、人間や亜人種が共存している世界があった。
竜は自然の力を借りて使う《魔法》を人々に与え、彼らの生活を豊かにしていた。
しかし、ある頃を境に人間は新たなる力――
蒸気のエネルギーで動く《機械》を手に入れる・・・。
自然を切り開いて次々と資源を採掘し技術を発展させていく者たちに、竜は幾度となく警告をした。
しかし彼らは、魔法よりも便利でだれにでも使える《機械》を手放すことはせず、ついに竜に反旗を翻した。
長きに渡る戦争が行われ、恐るべきことに竜は倒されこの世から消え去った。
また、竜族に属していた竜人(サラマンダー)たちも何処かへ姿を消してしまった。
そして世界は人間を中心とした新たな時代を迎えるのだった。
それから200年あまり
《機械文明》を中心に発展した者たちはルドラ帝国を築きあげてリーガロノクト大陸を支配していた。
技術を発展させ続ける帝国の力は大きく、かつて存在した国や文化も、
竜と自然を失ったことで帝国に抗う事はかなわず帝国の属国となっていった。
自然を食い潰し、次々と広がる《機械》文明に抗うものはほんの僅か。
機械文明を否定し、竜と自然を尊重するものたちだけである・・・。
リーガロノクト大陸には、外見や文化、価値観の異なる多様な種族が暮らしている。
かつてはそれぞれが独自の地に根ざし、他種族との関わりを持たずに生活していたが、数百年におよぶ時代の変化を経て、現在では多くの地域で種族を越えた共生が進んでいる。純粋な単一種族のみで暮らす集落は、今やほとんど存在しない。
また、古くは種族ごとに顕著だった身体的・文化的な特徴も、混血や環境の変化により徐々に薄れつつある。とはいえ、今なお“耳の形状”には種族ごとの違いが強く残っており、人々は耳を見ておおよその種族を判別するのが一般的である。
現在、大陸で広く知られる主要な種族は以下の四つに大別される:
ヒュム
エルフ
ドワーフ
ミクルフ
このうち、エルフ族は文化的・身体的な違いにより細かく分化しており、「ミドガル」「コビット」「ヴォビット」といった系統が存在する。これらは単なる地域差にとどまらず、風貌・価値観・生活様式にも違いが見られる。
ミクルフ族は、身体の一部に動物的な特徴を持つ種族であり、大きく「獣耳族」と「羽耳族」に分かれている。それぞれに異なる祖先伝承や身体的特徴があり、共通点もあるが異なる種族として扱われることも多い。
ドワーフ族は明確な亜種こそ存在しないものの、鍛冶・鉱山・建築などの職能や住まう地域によって“氏族”と呼ばれる文化的区分が存在し、名乗りや儀礼などに違いが見られる。
かつてエルフは、妖精郷メディナヘイムと呼ばれる隔絶された聖域にのみ暮らしていた。そこは自然と精霊が調和する神聖な地であり、郷の長やその側近たちは「ハイエルフ」と呼ばれ、強い選民意識と厳格な規律によって共同体を統治していた。しかし、そうした硬直した価値観やしきたりに反発し、自由を求めて外界へと旅立った者たちも存在する。彼らはやがて各地に根を下ろし、それぞれの土地で独自の文化や暮らしを築いていき、「ミドガルエルフ」と呼ばれる新たな系譜を形成した。
現在、大陸で見かけるエルフの多くはこの“ミドガル系”に属しており、その生活様式や性格も多様である。
中でも【コビット】や【ヴォビット】は、体格や能力に顕著な違いがあるものの、広義にはミドガルエルフの一種とされている。
エルフ族全体に共通する特徴として、長く尖った耳が挙げられる。
コビットは、エルフの中でも特に背丈の低い種族である。成人しても子どものような体格を保っており、その外見ゆえに他種族から子ども扱いされることも少なくない。しかし本人たちはそれを気にする様子もなく、むしろ愛嬌ある振る舞いやコミカルな言動で周囲の人気者となることが多い。
旺盛な食欲と好奇心を併せ持ち、他種族が口にしないような珍奇な食材でも平気で食べてしまう傾向がある。だがその分、お腹を壊すことも多く、「解毒薬」を常備しているコビットも少なくない。
快活で気まぐれな性格が多く、目の前のものにすぐ夢中になる反面、注意散漫で物忘れも多い。一方で、その小柄な体格に反して筋力は意外と高く、見かけに反して力仕事をこなす者も多い。
褐色の肌と黒髪を持つエルフの一系統であり、ミドガルエルフに属する一族のひとつとされる。
一般的なエルフに比べてややがっしりとした体格を持ち、男女ともに健康的で力強い印象を与える。特に男性はヒゲをたくわえる者も多く、他のエルフ系とは一線を画した風貌をしている。
意志が強く、自らの信念に従って生きる者が多いとされ、仲間や大義のためには命を懸けることも辞さない気質を持つ者も多い。また、五感に優れており、特に戦闘や追跡といった場面でその鋭い感覚が発揮される。かつてはヴォビットの間で発展した独自の剣術流派が存在し、今も一部ではその技が受け継がれているという。
ドワーフは、炭鉱地帯に都市を築き、金属加工や機械工作に長けた職人気質の種族である。
種族全体としては背丈が低く、がっしりとした体格に大きな丸い耳を持つのが特徴であり、長く尖った耳を持つエルフとは外見上も対照的である。ただし近年では、生活環境や職種の変化により「背の高いドワーフ」や「痩せたドワーフ」も増えつつあり、種族的な特徴はやや曖昧になりつつある。
かつて竜が存在していた時代、ドワーフたちは鉄を用いた武器や防具の製造を主な生業としていた。
だが、機械文明の到来とともにその技術は大きく変化し、現在では「ガジェット」と呼ばれる機械装置の製作・整備を得意とするようになった。現代のガジェット技術の発展は、ドワーフたちの技術的支柱があってこそ成り立っている。
文化面では、男性は髭を蓄え、優れた工作技術を持つ者が尊敬される一方、女性は長い髪と美しい歌声を備えた者が理想像とされている。職人の技も歌声も、彼らにとっては“誇り”そのものである。
ドワーフの最大拠点である炭鉱都市ムードリアスでは、職能によって氏族が分かれており、主に以下の四大氏族が存在する:
ファ族(鉱夫)
サン族(鍛冶師)
アイ族(細工師)
ウォ族(技巧師)
さらに、機械文明の急速な進歩の中で魔法との融合を志し、ムードリアスを離れて独自の研究を行っている“第五の氏族”として【ダク族】が存在する。
氏族には伝統的な序列があり、ウォ族を頂点に、アイ族、サン族、ファ族の順に続く。ダク族は序列に属さない独立系統とされる。
ドワーフの名には氏族名が含まれ、男性は氏族名を前に、女性は後ろに置くのが慣習である。
例:ファ族の鉱夫の場合
男性:ファンブ
女性:ムルファ
現在では都市外で暮らすドワーフも多く、冒険者や技術者として各地で活躍している。
獣耳族は、ヒュムの耳の代わりに犬・猫・虎・兎・狼などの獣の耳と尻尾を持つミクルフである。
耳の位置は基本的に頭部の上にあり、鹿・ひつじ・猿などをベースとする者のみヒュムに近い耳の位置となる。耳や尻尾のサイズには個体差がある。
聴覚が非常に優れており、耳の動きによって感情や警戒心を示すこともある。
長く大きな尻尾は日常生活で邪魔になることも多く、ベルト状に巻く、服にしまう、「テールマスク」と呼ばれる覆いで隠すなどの工夫がされている。親しい者に尻尾を触られると喜ぶが、信頼していない者に触れられると激しく怒るなど、身体的接触に対する感情の起伏が激しい傾向も見られる。
種族としてはオープンで陽気な者が多く、見た目の多様性ゆえに他者を見た目で判断しない寛容な性質を持つ。一方で、単独行動を好む者が多く、固定パーティーを組むことは少ない。
羽耳族は、ヒュムの耳の周囲に鳥類由来の羽毛が生える特徴を持つミクルフである。
耳の形状自体はヒュムに近いが、色鮮やかな羽毛によって独特の印象を与える。羽は髪の毛と似た性質を持ち、抜け落ちたり生え変わったりする。
羽毛は横に広がることもあり、狭い場所では引っかかったり抜けたりするため、バンダナなどで羽耳を束ねる者も多い。また、抜け落ちた羽は魔法ツールとして加工・利用が可能で、羽耳族の中には自作した羽根ツールを販売して生計を立てる者もいる。腰の下には短い尾羽も生えているが、これを露出する者は少数派である。
性格的には社交的でおしゃべり好きな者が多く、文章でのやり取りを好む傾向もある。状況把握能力に長け、伝令や伝達役として活躍する者も多い。仲間とすぐにパーティーを組むなど、団体行動に適応しやすい特性を持っている。
また、食事量が少なくても活動できる体質を持ち、中には「一日一杯の豆のスープ」で済ませる者もいると言われている。
ルドラ帝国における最高軍事機関の中枢を担う六名の将軍。
序列 | 名前 | 担当分野 | 種族 | 概要説明 |
---|---|---|---|---|
1位 | オードリン&リングラン | 帝国管轄領建造・宰相職 | 不明 | 常に仮面を着けた謎の二人組。建築と国家助言を担う双子宰相で、一将軍と数えられる。各地から逸材を引き入れる役割も持つ。 |
2位 | ガガイギア・ムーア | 帝国軍兵統括 | ミクルフ♂ | 機械兵を嫌い、生身の兵を重視する武人将軍。巨大な体躯と信頼厚き人格で帝国兵たちの象徴的存在。 |
3位 | シュボガッハ・ジャンケ | 参術研究統括(魔術・医術・学術) | ヒュム♂ | 人格が切り替わる多重人格の老博士。研究ジャンルごとに異なる人格で活動し、睡眠不要で日夜研究に没頭。 |
4位 | ザラキエル・シード | 特殊部隊統括 | 不明♀ | 無口で冷徹な元魔人兵。少数精鋭の暗殺部隊を率い、重力を操る謎の力を持つ。銀髪赤眼の美麗将軍。 |
5位 | ファルフォード・キジャ | 陸海空機開発統括 | ヒュム♂ | プライモール地方出身の天才技師。速度と乗り物に情熱を燃やし、実験的な移動機開発に没頭。部下からは“大棟梁”と呼ばれる。 |
6位 | ダントン・オラプナー | 兵器開発統括(ゴーレム設計) | ヒュム♂ | 自尊心と野望の塊。新型ゴーレムの開発を得意とし、命名センスは壊滅的。かつての戦争で失態を犯し、序列を下げられた。 |
帝国軍兵階級 | 帝国一般兵階級 | 帝国市民階級 |
---|---|---|
将軍 | 曹長 | 帝国貴族 |
准将 | 伍長 | 特級市民 |
大佐 | 一等兵 | 一級市民 |
大尉 | 二等兵 | 二級市民 |
特兵 | 三等兵 | 三級市民 |
特殊なルール
帝都ニゲルは、ズクンフッド地方の北東、豪雪地帯に浮かぶ小島に築かれたルドラ帝国の首都。
島全体が要塞都市のような構造を持ち、四方を海に囲まれているため、帝都へ入るには巨大な橋を渡る必要がある。この橋の通行には通行手形(認証パス)が必要で、取得にはズクンフッド地方内の大都市にて事前申請を行う必要がある。
通行手形の発行には滞在日数に応じた料金がかかり、非常に高額であるため、一般人が気軽に足を踏み入れられる場所ではない。
帝都内では市民級制度が導入されており、階級によって居住区域・住居の広さ・受けられるサービスなどが厳格に区分されている。その階層構造は、貧民と権力者をはっきり分ける制度的な格差を生んでおり、都市の外郭と中心部とでは全く異なる暮らしが営まれている。
医療・技術・学術・文化といったリーガロノクト大陸最高峰の知が集まる場所として、ニゲルを目指す者は後を絶たない。冒険者、学者、技術者、商人――立場を問わず、多くの者が“帝都入り”を夢見て日々を過ごしている。
帝都ニゲルへと続く巨大な橋の真下に広がる、煤煙と蒸気に包まれた労働者たちの街。
この街は都市計画のもとで築かれたものではなく、帝都に入る通行手形を持たない旅人や追放者たちが橋の下に野営を始め、徐々に住み着いたことが始まりとされる。町長や行政機関は存在せず、住民たちの手によって自然発生的に秩序が保たれてきた。インフラも不十分なまま拡張を続けた結果、街と呼ばれるほどの規模になった。現在では、帝都から橋を通じて運ばれてくる廃棄物の一部を、帝国管轄の廃棄炉へ送る前にアンダー・クエルボが処分代行として回収し、廃棄・再利用・リサイクルなどを行っている。また、近隣都市からの依頼を受けて工場部品を製造・修理する技術街としての一面も持ち、街の工房群は一定の信用を集めている。
住民の多くは、かつて帝都を目指しながらも何らかの事情で入れなかった者たち。犯罪歴、市民権の剥奪、書類不備、貧困など、理由はさまざまだが、それでもなお帝都への憧れを捨てきれず、この地に留まり続けている。そのため「いつか帝都で名乗りたい名前」を自ら決めている者も多い。生活は決して豊かではないが、金がなくともどうにか生きていける環境と、住人同士の助け合いの精神が根付いており、見た目に反して犯罪率は非常に低い。
娯楽は賭博であり、とりわけ人気を集めているのがガーニー=フロッグ・レースである。歓楽劇場都市ベン・ヴァーサで開催されるこのレースの模様は、廃棄されたラジオ受信ガジェットを住民が修復して帝都から受信し、街中で実況放送を聴くことができる。レースの予想を仲間内で行い、賭けを楽しむのが庶民の娯楽となっており、帝都から捨てられた新聞や、レースに詳しい予想屋の話が情報源となっている。
競技は以下の2種目に大別される:
月例トラックレース:
歓楽劇場都市ベン・ヴァーサの特設トラックを周回し、タイムと順位を競う短距離形式。
年一度の長距離レース:
ズクンフッド地方を東西に横断する大規模な耐久レースで、機体性能と操縦技術の両方が問われる過酷な競技。
帝国民からの支持は非常に高く、優勝チームにはルドラ帝国から多額の賞金と帝都認定の名誉称号が授与される。
ときに英雄として称えられる存在となり、若者たちの憧れの的でもある。
ルドラ皇帝の血を引く者たちを指す称号であり、皇族に準ずる立場として帝国内でも特別視されている。
その存在は制度上明確に認められており、血縁者であれば年齢や立場を問わず、この称号が付与される。
帝都ニゲル内には帝国貴族専用の居住区域が存在し、彼らはその一帯でのみ生活を営んでいる。
政治や軍事といった実務には関与せず、一般市民や他階級の者たちの前に姿を見せることもほとんどない。
彼らの暮らしは贅を尽くした優雅なものと噂されているが、その実態は外部には一切明かされておらず、帝国貴族の内情を知る者は極めて限られている。なお、彼らの世話や管理を担当する専属の従者・職員たちもまた、区域外への出入りを厳しく制限されており、一種の閉ざされた“宮”のような社会が築かれている。
その存在は公然と認められていながらも、帝国貴族たちの動向や価値観は謎に包まれており、帝都においても「見えざる影」として語られることが多い。
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