Short Story

「ふむ、なかなか悪くないじゃないか」

ギルドの登録名簿一覧を眺めながら、タオ・ストラーダは満足げに口の端を持ち上げた。

そんな彼の様子を見て、同じようにテーブルを囲んでいた男女――

ジェイムズ・ゴッドフ ィールドグリコ・フォルゼが苦笑を零す。

 

「タオ……いくら登録人数を増やせたからって、そんなににやにやすることはないんじゃない?」

 

「何を言っているんだ、フォルゼ。見ろよこの登録者の数を」と、熱の篭った声と共に、テ ーブルの上に表を置いた。

其処にはびっしりと記入欄が埋まったギルドの登録表が置かれ、タオは杯の中の酒を嚥下する。
口の周りについた泡を手で拭い、彼は空になった杯をたたきつけるような勢いでテーブルに置き、言った。

 

「俺は各地で見込みのある連中をスカウトしてきたわけだが、今回はまさに最上の成果を得ることができた!勿論、全て俺が集めたワケでは無いが大いに貢献したことは間違いない。これを喜ばなくてどうしろというのだ!」

 

「――で、気分が乗って脱ぎ散らかしたんだよな、大勢の前で」

失笑と共にそう指摘するグリコ・フォルゼの言葉に、タオは「ぐぬっ……」言葉を詰まらせた。

 

「そ、そんなこと言うなよ、フォルゼ。それにだ。俺はただ、鍛え上げた肉体を少しばかり披露しただけだろう?」

と、自慢の肉体を軽く脈動させた。

 

「はぁ~…」と軽く項垂れながらグラスに残った酒を飲みほした。

 

「一応、ご自覚があるようでなによりです。タオ様 」

タオの後ろから声をかけて来たこの女性は<教会所属の赤毛の記石修道女> ユア・キャメル

 

「貴方様の斯様な破廉恥行為、聖職に身を置く者として、やはりひとつ言わせて頂きます――有罪です!」

 

真顔で突然の有罪判決を言い渡した。

タオは目を丸くしながら憤慨の声を上げる。

逆にジェイムズとグリコはそんなタオの様子を見て、たまらず声を上げて笑った。
ご立腹という風に柳眉を吊り上げるユアの様子と、そんな二人の反応に対し、タオは納得がいかんといった様子で眉間にしわを寄せる。

 

「いいじゃないか、新人たちも、結構盛り上がっていただろう?ほら、ジェイムズも途中から一緒に脱いでたじゃないか」

 

「それはキミに無理矢理やらされてしかなく脱いだわけさ。でも、まあーレディ達から黄色い歓声も上がっていたから悪くない気分だったよ♪♪」

 

不思議だという風に首を傾ぐグリコの横で、ジェイムズが得意げに口の端を持ち上げる。

すると、ユアが笑みを浮かべながらジェイムズを見て――言った。

 

「――ジェイムズ様、有罪です」

 

「何故だ! 俺はタオに巻き込まれただけだぞ。シスター」

 

「さらっと責任を俺一人に押し付けるなよ、ゴッドフィールド。お前も同罪だ、同罪。仲良く有罪判決を受けよう!」

 

「お断りに決まっているだろう!」

 

「ちなみにシスター・キャメル。有罪だとどうなるんだい?」

二人のやり取りを横目に、グリコがユアに尋ねる。ユアは「決まっていますわ」と満面の 笑みを浮かべた。

 

「勿論、奉仕活動です」

 

「おや。ディアマールの風紀を著しく乱した罪に対する罰が、奉仕活動?」

首を傾げるグリコに、ユアは「その通りです」と頷いた。

 

「とても大切なお仕事ですわ。心優しい冒険者様たちが集めてきたヒューズストーン。それに見合う交換用アイテムを収集する、という――とても大切な奉仕活動ですから」

修道女の科白に、タオたちは顔を見合わせて首を傾げる。

 

「……なんだそりゃ」

 

「というかあの交換品、もしかしてそうやって集めてたの?」とグリコが驚いた。

 

 

そんな談笑中の4人が囲うテーブルに向かって一人の女性が近づいて来た。

 

「あ、いたいた。シスター・キャメル、クエスト申請が通りましたよ〜」

ギルドの受付嬢を勤めるメリー・ジャロである。

 

「メリーさん、有難うございます。依頼が正式に通ってホッとしましたわ」

 

「シスターがクエストの依頼者なのか一体どんな内容か気になるね。それはそうと、今日も可愛いよメリーちゃん♪」

と軽口を叩くジェイムズ。それを笑顔で答えるメリー。

 

ユアは咳払いひとつしてから口を開く。

 

「先ほどのは有罪判決は…まあ、冗談です。ですが正式にギルドを通したクエストなんですけど、もし良ければ、お三方に依頼したいのですがどうでしょうか?ギルドのA 級ハンター三人にとっては、いささか簡単なクエストかもしれませんが……」

 

「いささか……」

 

「……簡単?」

ユアの話を聞いたタオとジェイムズが、依頼書に書かれた内容を見て表情を険しくした。
グリコに至っては剣呑と言ってもいい雰囲気をまとっている。
が、そんな三人の顔色など知ったこっちゃない――とでもいう風に、ユアは粛々と告げる。

 

「丁度、新しい冒険者様たちが増えられたのでしょう? なら、先輩として彼らに冒険者とは何たるかを示してみるのに打ってつけではないですか」

 

「そうそう。シスターの言う通り。まさかギルドにA級と認定されている冒険者さんが、単に後続集めだけをして、夜は酒場でお酒を飲む人たち――なんてことないですよね~」

とメリーが煽る。

「それじゃあ、頑張ってね」と、メリーは片眼を瞑って微笑みながら踵を返す。

そんな彼女に気付いた、同じように酒場に居たほかの冒険者たちが

「おう、メリーちゃん! 今日も可愛いな! どうだい、たまには俺たちと一緒に――」なんて誘いかけるが、
メリーは「高いボトル頼んだら、考えてあげるわ」と適当に流してひらひらと手を振りながら、次々と飛び交う注文の声に対応していく。

 

そんな姿を見送りながら、三人は改めて手元の依頼書を眺める。

やがて、グリコが閉ざしていた口を開いて小さくこぼした。

 

妖精の森――か……」

ユアの提示した収集品の多くは、決して入手が難しいものではなかった。だが、その中の幾つかを入手するには、どうしてもいかねばならない場所があった。

 

ー妖精の森ー

かつての戦争の際にヒュムと敵対する道を選んだ
ハイエルフや一部のミクルフなど亜人種族の者たちがのみが住まう場所。
鎖国的価値観があり、ヒュムを特に嫌うので人の姿ではその場所へは入れない。

 

流石にA級の冒険者といっても難色を示すのも仕方のないだろう。

だが、

 

「――良いだろう。このクエスト、引き受けよう」

ジェイムズは依頼書を懐にしまいながらそう言った。

そんな彼を見て、依頼を出したユア
だけではなく、タオとグリコも驚き彼を見た。そんな彼らの視線を向けられた剣士は、不敵な微笑を返しながら訊ねる。

 

「意外か?」

「少しな」

「ああ。もう少し渋るかと思った」

 

タオとグリコが肯定する。
するとジェイムズは「まあ、そうだろうな」と嘆息しながら二人を見返し、

 

「まあ、あれだよ。道行く可愛い女の子にプレゼントをしまくっていたらG(ゴルト)がすっからかんなんだ。まあ、妖精の森辺りの魔獣の素材は質の良いものが多くて高値で売れるし、その辺で当面は稼ごうと思っただけさ。美人エルフでも口説きながら――な」

と、いささか返答に困る理由を語られてしまい、タオとグリコは呆れ半分に苦笑をこぼした。

 

「もう少し高潔だったり、道徳的な理由で仕事を引き受けられないのですか?」 とユアは半眼で睨むが、

 

「そいつは無理な相談だな」と肩を竦める。

 

「――で、お二人は?」

ジェイムズが二人に訊ねる。
すると、タオがジェイムズから視線をユアに移す。

「なあ、シスター。このクエストの期限は?」

「各地を歩きながらの収集となりますから、納期は長めに見積もっていますわ。流石に年単位はお断りですけれど、数か月程度と考えていますが」

 

「――なら、引き受けるぜ」
タオはぱんっと左の掌に右の拳を打ち込みな がら言った。

 

「途中、幾つかの街のギルドを経由しながらになるが、それでもいいならな」

「充分ですわ」

付け足された内容に異を唱えることもせず、ユアはその提案を受け入れる。

 

「じゃあ、私もやるとしよう。男二人じゃあ、妖精の森の住人たちの警戒心を無駄に刺激するかもしれないしな」

彼らのやり取りを見ていたグリコが、仕方ないとでもいう風にそう口にした。別段おかしな理由ではなかったのだが、わずかに違和感を覚えたジェイムズが首を傾げ、何気なく訊ねる。

 

「――本音は?」

 

「な~に、此処の荒くれたちと遊んでたんだけど私に身包み剥がされまくってるからもう誰も飲み勝負してくれないのさ。だから、河岸を変えようかと」

「納得」
もとから隠す気などこれっぽっちもなかったのであろうグリコはあっさりと本音を口にし、タオとジェイムズは納得の意を示すように肩を上下させて、席を立つ。

 

「んじゃ、明日から出発の準備だな」

 

「タオ、ギルドの宿舎に引き払い手続きを忘れるなよ」

 

「何故俺を名指しする? これでもベテランだぞ」

 

「すぐ脱ぐのに?」

 

「それは関係ないだろっ!?」

真顔の二人に憤慨する彼らに、

 

「――仲がよろしいようで何よりですわ」
ユアはくすりと微笑を零した。

 

A級ハンターの三人は「猫とまきがい亭」を後にした――――

 

 

「おや? お三方は何処に?」

片眼鏡を掛けた青年――ブルハン・ゾロが、エールの瓶やカクテルの納まった硝子杯をトレイに乗せてやって来た。

「今し方帰られましたわ。明日からクエストのための準備に入るそうです」。

手際よくグラスや皿を片付け始めようとするが、テーブルに置かれた依頼が気になった様で手に取って眺めた。

「妖精の森ですか…昔、行ったことがあるんですよね。」

「あら。それではブルハンさんに頼めばよかったのかしら?」

「いえ、今はここを守るのが仕事なので・・でも、知っての通り妖精の森には人の姿では入れませんからね。入るのには苦労しましたよ」

と、元遺跡学者のブルハンが言う。

「はい。大変というのは知っておりますが、あの方たちならば大丈夫だと信じておりますので」

「まあ、それもそうですね。少し変わってますが彼らはA級ハンターですからね。あ、そうそうところでユアさんよかったら私が作った新作のカクテルでも飲んでいきませんか?」

「いいですわね。是非とも頂戴しますわ」

「じゃあ、作ってきますね!」とバーに戻るブルハン。

 

 

一人になったユアは少し周りを見渡した。

 

 

楽しく会話をする人――

 

酔っぱらって絡む人――

 

音楽に乗って歌って踊ってる人――

 

静寂とはかけ離れている店内をみてこう呟いた。

 

「人と人との出会いは奇跡のようなもの。その大事な一瞬一瞬をずっと記憶していければどんなに素敵なことなのでしょうか。願わくば彼らの旅路が無事であらんこと・・・」

 

そうユア・キャメルは彼らの無事を想い、両眼をつむり祈りをささげたのだった――――

 

 

 

 

to be continued

 

 

 

 

 

STORY

原案 Aoi shirasame

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